米国債のステープル化でどうなる?
- 米国債の売り圧が緩和される。→短期国債限定か →短期国債(FRB政策金利)と長期国債(物価連動)で動きが変わる?
- 金融危機の時に必ず起こる諸外国のドル不足時にはステープル化でドル不足緩和される。→今後GENIUS法下で海外の銀行もUSステープルコインをドル発行出来るようになるのか?
- 将来的には米国債がステープルコイン化となるので、かなりのインフレになる。
- 銀行業務は国債の利廻り収益が大部分となり、融資(信用創造)は少なくなる。
- インフレ加速と引き換えに米国債の利廻りは抑えられるか?
- マネロン対策・取引監視(税金監視)が目的の為、銀行での現金引出等は手数料アップ。→現金決済は制限される。
米国の借金と米ドルの信任問題
米国の巨額負債
- 2025年現在、米国の国家債務(gross national debt)は約38.09兆ドルに達しています。1日あたり約59.7億ドルのペースで借金が膨張しています。この債務の大部分は、連邦政府の赤字財政(主に社会保障、医療、軍事支出の拡大)によって生じ、対GDP比で約130%を超える水準です。債務の利息支払いだけでも、2025年度で約1兆ドルを超え、Medicareや国防費を上回る規模となっています。この巨額の借金は、米ドルの信任に深刻な影を落としており、巷では米ドル破綻か?という論調も多くなっています。
- 伝統的に、米ドルは世界の準備通貨として信頼されてきましたが、債務の急増はインフレ懸念や財政持続可能性への疑念を呼び、外国投資家(特に中国や日本)の米国債保有を減少させています。例えば、外国中央銀行の米国債保有シェアは過去15年間で急落しており、地政学的緊張(例:貿易関税の影響)でさらに加速しています。これにより、金利の上昇圧力が生じ、米ドルの価値が揺らぎ、グローバルなドル覇権が脅かされるリスクが高まっています。中央銀行による量的緩和(QE)のような債務ファイナンスは、短期的に支えますが、長期的にインフレを招き、信任をさらに損ないます。
GENIUS法:ステーブルコインの枠組み
2025年7月18日にドナルド・J・トランプ大統領が署名したGENIUS法(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act of 2025)は、米国初の連邦レベルのステーブルコイン規制を確立し、米ドルにペッグされたデジタル資産で、ブロックチェーン上で即時・低コストの決済を可能にします。
GENIUS法の核心は、ステーブルコインの準備金を100%裏付けさせることであり、ここで「米国債のステープルコイン化」が実現します。
準備金要件
- 発行者は、ステーブルコイン発行額の100%を、米ドル現金、短期米国債(Treasury bills)、または米国債裏付けのレポ取引で保有しなければならない。これにより、ステーブルコインは単なるデジタル通貨ではなく、米国債に裏打ちされた「デジタル版米国債」となります。月次で準備金の構成を公開する義務も課され、透明性を確保する仕様となっています。
発行者規制
- 発行者は銀行子会社や承認された非銀行機関に限定され、外国発行者も米国基準に準拠する必要があります。また、破産時はステーブルコイン保有者が優先的に準備金(主に米国債)を回収可能で、消費者保護を強化します。
不正防止
- AML(マネーロンダリング防止)遵守を義務付け、AIやブロックチェーンを活用した監視を推進します。
この仕組みは、ステーブルコイン市場の成長を促進しつつ、米国債需要を直接的に押し上げます。現在、ステーブルコイン市場規模は約1,500億ドルですが、GENIUS法により、2030年までに数兆ドル規模への拡大が予想され、発行者の米国債保有が急増します。例えば、Tether(USDT)やCircle(USDC)のような大手発行者は、すでに1,200億ドル以上の米国債を保有しており、新規需要は2兆ドル以上に達する可能性があります。
ステープルコイン化で信任回復
GENIUS法による米国債のステープルコイン化は、米国債の売り圧を緩和し、米ドル・米国債の信任を回復する鍵となります。仕組みを説明します。
米国債需要の爆発的増加と金利低下
- ステーブルコイン発行者は、準備金として主に短期米国債を購入するため、債務ファイナンスの新たな安定した需要源となります。従来の外国保有減少(中国・日本のシェア低下)を補い、私的セクター(ステーブルコイン発行者)が債務の主要バイヤーとなります。これにより、米国債の需給バランスが改善し、金利が低下します。例えば、BISの分析では、ドル連動ステーブルコインの成長が米国債利回りを0.1-0.2%押し下げ、年間数千億ドルの利息節約効果を生むと指摘されています。金利低下は、債務負担を軽減し、財政の持続可能性を高め、市場の信任を回復します。Brookings Institutionの報告書も、ステーブルコインが短期米国債需要をブーストし、財政安定に寄与すると結論づけています。
米ドルのグローバル覇権強化とデドル化対策
- ステーブルコインの80%以上が米ドルペッグで、取引の大部分が海外(新興国や送金回廊)で発生します。GENIUS法はこれを規制的に後押しし、デジタルドルを世界中に「輸出」します。これにより、米ドルはブロックチェーン上で即時決済の手段として定着し、ユーロや人民元などの競合通貨に対する優位性を維持します。中国の元デジタル通貨推進やEUのデジタルユーロ構想に対するカウンターとして機能し、Zhou Xiaochuan元中国人民銀行総裁の懸念発言(ドル化の副作用)からも、その影響力が明らかです。
信任の基盤強化:透明性と流動性
- GENIUS法の100%準備金と月次公開は、ステーブルコインの信頼性を高め、法律的な後押しで伝統的な銀行預金からのシフトを促進します。これにより、資金が銀行貸出から米国債へ再配分され、信用創造は一部減少する可能性がありますが(Kansas City Fedの指摘)、全体としてドルシステムの安定性が向上します。これが、米ドルの「安全資産」としての地位をデジタル時代に適応させ、グローバル投資家の信頼を回復します。ARK Investの予測では、ステーブルコイン市場が5-10倍成長すれば、中国・日本に代わる最大の米国債保有者となり、長期金利低下を通じて信任を固めると言われています。
成功するのか?
規制の国際調和(EUや諸外国の類似法との連携)が今後の鍵かもしれません。
GENIUS法は米国の38兆ドル超の借金を背景に、米国債のステープルコイン化を通じて、米ドルの信任を回復させる、米ドル浮上の法案と言えるでしょう。これは財政赤字を私的需要で支え、デジタルイノベーションでドル覇権を再強化する戦略です。Bricks通貨の台頭に対して、今後米ドルは脆弱な基軸通貨から、グローバル決済の基盤へ進化し、持続的な信任を得られるか要注目です。
日本のステープルコインJPYCも日本国債の等価担保による発行という事で、GENIUS法と変わらない枠組みとなっています。全世界的なステープルコイン化によりインフレが進む流れになりそうです。
冒頭に記載したように、米国以外の外国の銀行も米国GENIUS法基準で米国債を担保に米ドルステープルコインを発行するのかが今後の鍵となりそうです。このようにGENIUS法はグレートリセット後の世界統一通貨まで見据えた法律なのかもしれません。
ステープルコインはブロックチェーンによるマネロン対策・取引の監視化・税金監視体制もあわせ持つ政策なため、現金取引はコスト高(手数料高)の制限がかけられるでしょう。今後、米国債に対しての米国の思惑が成功してもしなくても、今後ステープルコインの流通がインフレに拍車をかける事は間違いありません。