海外の銀行口座・証券口座・仮想通貨口座を使用している人には、知っておきたい制度(CRS/CARF)を紹介します。
CRS(共通報告基準)とは
Common Reporting Standardの略で、日本語では「共通報告基準」と呼ばれる国際的な制度です。主な目的は、外国の金融機関を利用した国際的な脱税や租税回避を防止することです。OECD(経済協力開発機構)が2014年に策定し、現在100以上の国・地域が参加しています。(もちろん日本も参加)
CRSの仕組み
- 外国の銀行に口座を持っていて、税務上の居住地が日本の場合
→ 外国の銀行がその国の税務当局に報告
→ その情報が日本の国税庁に自動的に届く
日本でのCRSの開始時期と現状
- 2017年1月1日から日本の金融機関は新規口座開設時に「税務上の居住地国」の届出を義務化
- 2018年(平成30年)から本格的な情報交換スタート
- 日本国内の金融機関(銀行・証券会社・保険会社など)は、毎年4月30日までに非居住者の口座情報を国税庁に報告
- 最近のデータでは、日本居住者の海外口座残高情報が約17兆7,000億円規模で把握されている(令和6事務年度)
報告される情報
- 氏名・住所・生年月日
- 税務上の居住地国
- 外国の納税者番号(TIN)※いくつかの国では口座取得の時に必要になる。
- 口座番号
- 年末時点の口座残高
- その年に受け取った利息・配当・売却益などの金額
今後(2026年~)
OECDの改正を受けて、日本でも令和8年から制度が見直しされ、報告対象が拡大する予定です。
(例:一部のデジタル資産や資金移動業者の口座なども対象になる可能性)要するに、CRSは「税務の透明性を世界的に高める仕組み」で、海外資産を持っている人にとっては「もう隠せない時代になった」という制度だと思っておくと良いでしょう。
金融機関(銀行・証券会社・保険会社など)が国税庁(所轄税務署長)に情報を報告する期限は、基本的に以下の通りです。
- 基準日:毎年 12月31日時点の情報(年末残高など)
- 報告期限:翌年の 4月30日まで
(例:2025年12月31日時点の情報 → 2026年4月30日までに報告) - その後、国税庁は集めた情報を租税条約等に基づき、相手国の税務当局へ自動的に交換します。
- 交換の実際のタイミングは国によって異なりますが、多くの国で同年9月頃(例:2026年9月に2025年分の情報が相手国に届くケースが多い)に行われています。
- つまり、あなたが日本居住者で海外口座を持っている場合、海外金融機関 → 海外税務当局 → 日本の国税庁という流れで、おおむね翌年の夏〜秋頃に情報が届いていることが一般的です。
- 申告漏れが発覚した場合、過去数年分の遡及課税+重加算税のリスクが高まる。
CARFとは
Crypto-Asset Reporting Framework(暗号資産等報告枠組み)の略で、OECDが2022年に策定した国際基準です。日本語では「暗号資産等報告枠組み」と呼ばれています。これは、CRS(共通報告基準)の暗号資産版のようなもので、暗号資産(仮想通貨)を利用した国際的な脱税・租税回避を防ぐための仕組みです。銀行口座のCRSと同じく、各国の税務当局間で非居住者の暗号資産取引情報を自動的に交換します。
CARFの主な目的と対象
- 目的:暗号資産の取引(売買・交換・移転)で生じたキャピタルゲイン(譲渡益)を正確に把握し、居住地国で適切に課税する。
- 対象資産:ビットコインなどの典型的な暗号資産だけでなく、セキュリティトークン、NFT、一部のトークン化された資産なども含む。
- 報告対象:主に非居住者(例:日本居住者が海外取引所を使う場合、または外国居住者が日本の取引所を使う場合)の取引情報。
- 残高情報は報告されない(CRSとは違い、年末残高ではなく取引フロー中心)。
報告される情報
暗号資産交換業者(取引所など)が税務当局に報告する項目は、主に以下の通りです(OECD基準+日本版)
- 利用者情報:氏名・住所・生年月日・税務上の居住地国・外国の納税者番号(TIN)
- 取引情報:その年に行われた暗号資産の種類ごとの売却・購入の対価の総額(支出・収入の年間合計額)
- 暗号資産の種類(BTC、ETHなど)と取引数量の概要
ポイント:CRSのように「年末残高」は報告されませんが、年間の売買総額・交換総額が詳細に把握されるため、利益の申告漏れが非常に検知しやすくなっている。
日本でのCARF(日本版CARF)の開始時期とスケジュール(2026年現在)
- 2026年1月1日:制度施行(令和8年1月1日)。報告暗号資産交換業者等(国内取引所など)が顧客の居住地国確認・記録開始。
- 新規/既存ユーザー:2026年1月1日以降の新規口座開設時は口座開設時に、2025年12月31日時点の既存口座保有者は2026年12月31日までに「新規届出書」(税務上の居住地国等)を取引所に提出義務。
- 提出しないと取引制限の可能性あり。
- 日本居住者でも「居住地国:日本」と記載が必要(複数国居住時はすべて記載)。
- 初回報告:取引所 → 国税庁へ、2027年4月30日までに2026年分の取引情報を報告。
- 初回国際交換:2027年中(令和9年)に、日本の国税庁が海外取引所経由の日本居住者の2026年分情報を海外税務当局から受け取り開始。
→多くの国で2027年または2028年から情報交換開始。日本は早期導入組です。
暗合通貨ウォレットはCARF対象?
CARF(Crypto-Asset Reporting Framework、暗号資産等報告枠組み)では、報告義務の主体は「Reporting Crypto-Asset Service Provider(RCASP)」と呼ばれる事業者(報告対象暗号資産サービス提供者)です。これには主に中央集権型取引所(CEX)、一部のウォレットプロバイダー、ブローカー、ATM運営者、特定のDeFiプラットフォーム(コントロールを有するもの)などが含まれます。
自己管理型ウォレット(非保管型ウォレット、self-hosted wallet / non-custodial wallet / unhosted wallet)について
- 純粋な自己管理型ウォレット(MetaMask、Ledger、Trust Walletなどの個人用ハードウェア/ソフトウェアウォレット)は、報告義務の対象外です。
- これらは事業としてサービスを提供していないため、RCASPの定義に該当しません。
- 個人間で直接取引(P2P)したり、DEX(分散型取引所)を介して取引したりする場合も、中間業者が存在しない限り、CARFの報告対象になりません。
- つまり、完全に自己管理されていて、取引所などのRCASPを介さない取引(ウォレット間直接送金、DEX上のスワップなど)は、CARFによる自動報告・情報交換の対象外です。
- ただし、間接的に捕捉されるケースがあります。
- RCASP(例:日本の取引所や海外CEX)が、あなたの口座から自己管理型ウォレットへ暗号資産を移転した場合:
- その移転の総額(単位数 + 公正市場価値の合計)と取引回数を集計ベースで報告します。
- 具体的なウォレットアドレス自体は報告されませんが(当初の草案では報告予定だったが、最終版で削除)、税務当局はこれをきっかけに追加調査(例:ブロックチェーン分析やEOI経由での照会)を行う可能性があります。
- つまり、取引所から自分のウォレットへ出金したり、逆にウォレットから取引所へ入金したりするフローは、部分的に捕捉されます。
- RCASP(例:日本の取引所や海外CEX)が、あなたの口座から自己管理型ウォレットへ暗号資産を移転した場合:
日本でのCARF適用(2026年施行以降)
- 国内の暗号資産交換業者(報告対象事業者)は、2026年1月1日以降の取引について、税務上の居住地国の確認・記録を開始。
- 自己管理型ウォレット自体は報告対象外ですが、取引所経由の入出金は上記の移転情報として報告されるため、税務当局(国税庁)が把握しやすくなる点は変わりません。
- DeFiや完全非保管型のプラットフォームでコントロールを有するエンティティが存在する場合、そちらがRCASPに該当する可能性あり(OECD FAQで非保管型サービスも除外されないと明記)。
まとめ
- 自己管理型ウォレット単体 → 報告義務なし(事業者でないため)。
- 取引所(RCASP)経由のウォレット移転 → 移転総額・回数が集計報告される → 間接的に捕捉リスクあり。
- 完全P2Pや純粋DEXのみ → 現時点のCARFでは報告されない(ただし、将来的な規制強化やブロックチェーン分析の進化でリスクは残る)。
CARFはCRS同様に「中間業者を通じた取引の透明化」を主眼としており、完全にオフチェーン・非仲介の活動まではまだ完全にカバーしていません。ただし、取引所を一切使わず自己管理ウォレットだけで運用するのは実務上ハードルが高く、多くの人はどこかでRCASPを介するので、移転情報として補足されます。