CBDCとGENIUS法ステープルコイン
GENIUS法案で見えてきたアメリカのデジタルマネーと従来のCBDC(中央銀行デジタルマネー・政府発行デジタルマネー)の違いについて解説及び今後の予想をしていきたいと思います。
CBDC(中央銀行デジタル通貨)とGENIUS法に基づくステーブルコインは、いずれもデジタル通貨の一種ですが、発行主体(国家 vs 民間)、規制の枠組み、利用目的、国際的な影響力などにおいて大きく異なります。以下に主要な違いを整理します。
アメリカのGENIUS法案に準拠したステープルコインを当ページではリバタリアンマネーと呼んでいきます。
そして、各国政府が計画している政府(財務省)発行デジタルマネーや政府(財務省)発行仮想通貨もCBDC(中央銀行デジタル通貨)と同類として述べていきます。
CBDC・・・中央銀行デジタル通貨・政府(財務省)発行デジタル通貨・政府(財務省)発行仮想通貨
リバタリアンマネー・・・Genius法案に関連するステープルコイン(ドル・米国債を準備資金とする民間企業発行)
1. 発行主体と法的位置付け
CBDC(例:デジタルユーロ・デジタル人民元)
- 発行主体→国家(中央銀行/財務省)
- 法的位置付け→法定通貨(現金と同等)
- 信用の裏付け→国家の信用(政府保証)
- 規制の枠組み→中央銀行の金融政策に従う
GENIUS法に基づくステーブルコイン(例:USDC・USDT・XRUSD)
- 発行主体→民間企業(銀行/FinTech企業)
- 法的位置付け→法定通貨にペッグされたデジタル資産
- 信用の裏付け→民間企業の信用+準備資産(米国債/現金預金)
- 規制の枠組み→GENIUS法(米国連邦法)の規制下
CBDCは国家が発行し、法定通貨としての地位を持ちます。例えば、中国のデジタル人民元(e-CNY)は中国人民銀行が直接管理し、現金と同等の法的効力を持ちます。
一方、GENIUS法に基づくステーブルコイン(例:USDCやPYUSD)は民間企業が発行し、米ドルと1:1でペッグされています。GENIUS法では、発行者は準備資産(米国債や現金)を保有し、毎月その内容を開示する義務があります。
2. 目的と利用シーン
CBDC
- 【主な用途】国内決済、金融包摂、政府支出
- 【利便性】銀行口座不要、オフライン取引可能
- 【国際展開】主に国内利用(中国はmBridgeで跨境決済を試験中)
GENIUS法ステーブルコイン
- 【主な用途】国内決済、国際決済、DeFi(分散型金融)、貿易取引 |
- 【利便性】銀行口座不要、高速送金可能
- 【国際展開】グローバル市場での利用(例:USDCは国際送金で活用)
CBDCは、国内の金融包摂(銀行口座のない人々へのアクセス提供)や政府の経済政策に活用されます。中国では、デジタル人民元を小売決済や公共料金の支払いに利用しています。
一方、GENIUS法ステーブルコインは、国際貿易や暗号資産市場での決済手段として使われます。例えば、ウォルマートやアマゾンが自社ステーブルコインの発行を検討しており、クレジットカード決済の代替※として期待されています。
※手数料はクレジットカードより安く、決済スピードも速い。
3. 規制とリスク管理
CBDC
- 規制当局→中央銀行/政府
- 匿名性→制御可能(小額取引は匿名、大額は追跡可能)
- リスク→家の金融政策に依存
GENIUS法ステーブルコイン
- 規制当局→米国財務省/SEC/州金融当局
- 匿名性→KYC/AML(本人確認)必須
- リスク→発行企業の信用リスク、資産裏付けの透明性
CBDCは政府が完全に管理し、取引の追跡が可能です。中国では、デジタル人民元の利用状況を監視し、資本移動をコントロールしています。
一方、GENIUS法ステーブルコインは、発行企業の財務健全性が重要です。2022年の「テラUSD」暴落のようなリスクを防ぐため、GENIUS法では「※アルゴリズム型ステーブルコイン」を禁止し、100%の資産裏付けを義務付けています。
※アルゴリズム型ステーブルコインとは、法定通貨や商品などの実物資産による裏付けを持たず、代わりにアルゴリズム(数式やスマートコントラクト)によって価格の安定を図るタイプのステーブルコイン。
4. 国際通貨戦略における位置付け
CBDC(例:デジタルユーロ・デジタル人民元)
- 人民元の国際化を推進(例:CIPS決済システムの拡大)
- 米ドル依存からの脱却を目指す(中国、ロシア、中東諸国での利用拡大)
GENIUS法ステーブルコイン(例:USDC)
- 米ドルの覇権維持(国際決済でのドル建てステーブルコイン利用を促進)
- 米国債を準備金とするので発行会社は金利収入も得られる。
- 米国はCBDC(デジタルドル)を拒否し、民間ステーブルコインを推進 ∶ 例∶USDC(サークル社)
まとめ
CBDC(国家発行)
→中央銀行発行
→信用源∶国家の信用
→中央銀行管理
→国際戦略∶自国通貨の国際化
GENIUS法ステーブルコイン(民間発行)
→民間企業発行
→信用源∶準備資産(米国債・現金)・発行企業
→GENIUS法(連邦規制)
→国際戦略∶米ドル覇権の維持
CBDCは国家主導で金融政策や経済統制を強化する手段であり、GENIUS法ステーブルコインは民間主導で国際金融市場でのドル覇権を維持するツールとして機能しています。
中国はCBDCを推進する一方、米国は民間ステーブルコインを支援することで、デジタル通貨戦略の違いが鮮明になっています。
また日本円とは違いドルは依然基軸通貨なので、米政府の借金も米国債の買い手さえつけば信用不安は回避できるとも考えられています。
中央集権的なステープルコインを民間グローバル企業がGENIUS法のもと管理する形となります。
(結局、非中央集権的なビットコインのようなアルゴリズム型コインは選ばれませんでした。分散型でブラックボックス的なものは採用されなかったという事でしょう。)
今後の予想
リバタリアンマネーは、ピーターティールを筆頭とするテクノリバタリアンによる思想が色濃く垣間見えます。
- テクノロジーによる国家の解体
- 暗号通貨・ブロックチェーン:政府の通貨発行権や税制を無効化し、「国家なき資本主義」を実現。
- 国家の役割を最小限にし、国家を介在しないシステム構築。
- オールドシステム(既存国家資本主義)の解体
- 寡占勢力(グローバリズム企業)による新しい発想による支配
- Still World から New World へ
リバタリアンマネーはドル・米国債を準備金としているものの、CBDC(国家運営デジタルドル)を拒否し、民間ステーブルコインを推進しています。ゆくゆくはUSDC(サークル社)等とリンクする形でアマゾン通貨やウォールマート通貨という形でグローバル企業が発行できると言われています。
CBDCは国家通貨なので、デジタルなだけで、国家間の為替は今までどおり、通貨の為替レートでの通貨間の相対価値となります。
一方、リバタリアンマネーはドル・米国債を準備金とはしていますが、民間会社発行なのでゆくゆくはグローバル企業の信用性で国家間マネーの為替レートから乖離してくる可能性は高いでしょう。
巷ではここ最近、経済的にグレートリセット云々と言われていますが、トランプ関税をトリガーとしてグレートリセットに向かうとすれば、国家システムの解体後に、国家に依存しない寡占システムをリバタリアンマネーが主導しているかもしれません。
CBDCもリバタリアンマネーもデジタル管理通貨なので、取引情報・売り買いの履歴も管理される世の中になる事は間違いありません。
国家管理か超国家(寡占階級)管理になるかの違いです。
しかし、CBDCよりもリバタリアンマネーのほうが、ジョージオーウェルの「1984」や「ブレードランナー」の世界観に近いということだけは言っておきます。